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幼少期に食べ物に強く反応する子は摂食障害のリスクが高い

 幼少期の食べ物に対する関心の強さと、その子どもが10代前半になった時の摂食障害のリスクとの関連性を示すデータが報告された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)疫学・ヘルスケア研究所のIvonne Derks氏らによる、英国とオランダでの縦断的コホート研究の結果であり、詳細は「The Lancet Child & Adolescent Health」に2月20日掲載された。 この研究では、4~5歳の幼児の親に対して、子どもの食欲や摂食行動に関するアンケートを実施して食欲特性を評価。その約10年後の子どもが12〜14歳になった時点で、自己申告により摂食障害の症状の有無を把握した。追跡調査の時点で、対象の約10%が過食性障害の症状を報告し、その半数が一つ以上の代償行動(食事を抜いたり絶食したり、過度の運動をするなど)を報告した。 幼少期の食欲特性と10年後の摂食障害の症状との関係を統計学的に解析した結果、以下のような関連が見つかった。 まず、幼少期に食物反応性(食べ物を見つめたり、臭いを嗅いだりするなどの行動でスコア化)が高いと、成長後に過食性障害の症状〔オッズ比(OR)1.47(95%信頼区間1.26~1.72)〕や、乱れた食行動〔OR1.33(同1.21~1.46)〕、衝動的な摂食〔OR1.26(1.13~1.41)〕、摂取制限〔OR1.16(1.06~1・27)〕、および代償行動〔OR1.18(1.08~1.30)〕が多いことが明らかになった。また、幼少期に衝動的な摂食をする傾向があると、成長後に代償行動が多いことも分かった〔OR1.18(1.06~1.33)〕。 対照的に、幼少期に食後の満腹感が高いことは、成長後の代償行動〔OR0.89(0.81~0.99)〕や乱れた食行動〔OR0.86(0.78~0.95)〕のオッズ比低下と関連していた。また、幼少期に食べる速度が遅いことが、成長後の代償行動〔OR0.91(0.84~0.99)〕や摂取制限〔OR0.90(0.83~0.98)〕が少ないことと関連していた。 論文の筆頭著者であるDerks氏は、「われわれの研究では因果関係を証明することはできないが、幼少期の食物反応性が思春期に摂食障害を発症しやすくなる素因の一つである可能性を示唆している」と総括している。ただし、「幼少期に食物反応性が高いことは極めて一般的に見られることであり、親が心配すべきことではない。摂食障害のさまざまな潜在的リスク因子の一つに過ぎないと見なすべきだ」とも述べている。 一方、Derks氏と同じくUCLの研究所に所属し、論文の上席著者であるClare Llewellyn氏は、「明らかになった知見は、子どもたちが成長過程の中で摂食障害のリスクを回避するのに役立つのではないか」としている。同氏によると、摂食障害はいったん発症すると効果的な治療が困難であり、発症を未然に防ぐことが望ましいという。 その発症予防について、論文共著者の1人で同じくUCLの研究所に所属しているZeynep Nas氏は、「親が子どもたちに対して健康的な食事環境を提供し、適切な食事を与えることが、摂食障害予防のサポート手段となる」と語っている。そして、「健康的な食事環境」とは、「体に良いとされる食品を手頃な価格で入手可能とする環境」と解説。また、「食事の時間を規則正しくすること、および、子どもにプレッシャーをかけることなく、何をどれくらい食べるかを子どもたち自身が決められるようにしていくことが重要」とも付け加えている。

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洗剤誤飲【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第11回

異物誤飲は救急外来で遭遇する機会の多い疾患の1つです。高齢者の義歯が取れて飲み込んでしまった、コップに洗剤を入れていたことを忘れてそれを飲んでしまった…など。わが国の誤飲頻度の正確なデータはありませんでしたが、単施設での報告によると65歳以上の高齢者の頻度が多く、1位:薬剤の包装紙、2位:義歯、3位:魚骨でした1,2)。一方、消費者庁によると2020年度の65歳以上の高齢者の誤飲・誤食の事故情報は318件寄せられており、医薬品の包装シート、義歯・詰め物、洗剤や漂白剤が多いそうです3)。洗剤や漂白剤を誤飲してしまったときの対処法を記載した医学書やレビューは少ないため、実際に私も救急外来で「誤って洗剤を飲んでしまったが、かかりつけ医に相談したところ救急外来を受診するよう指示されたので来た」という話を聞くことがあります。私は年に数回「誤って洗剤を飲んでしまった」という電話相談もしくは診察をすることがありますが、私の経験では成人が洗剤や漂白剤を誤飲したとしても何か特別な処置が必要なケースは限られていて、ほとんどが何もすることなく終わっています。だからといって全部大丈夫というわけではないため、日本石鹸洗剤工業会の「誤飲・誤用の応急処置(公益財団法人 日本中毒情報センター監修)」を参考に、私の診療過程を症例をもとに紹介します。なお、今回は認知症のない成人で台所用洗剤に重点を置きます。<症例>70歳女性主訴誤って台所用洗剤を飲んだ。昼の12時ごろ台所のコップに入っていた水を飲んだところ変な味がした。娘に確認したところコップを洗剤につけて茶渋を取っていたとのこと。口腔内に違和感があるため受診。既往歴高血圧上記は救急外来にフラッとやって来た患者さんです。順を追って対処しましょう。(1)バイタルサイン、嘔吐の有無の確認こういった洗剤などの誤飲で問題になってくるのは、嘔吐して誤嚥してしまうことです。洗剤は当然飲むものではなく、強い味や香りのため飲めたものではありません。万が一飲んでしまった場合、その味や香りで嘔吐して誤嚥することがあります。そのため、まずは誤嚥性肺炎を生じていないか確認しましょう。この患者さんは、嘔吐もなく、SpO2は室内気で98%でした。(2)洗剤の種類の確認台所用洗剤の種類は大きく分けて合成洗剤、食器洗い機専用洗剤、台所用石けん、台所用漂白剤(塩素系)、台所用漂白剤(酸素系)、クレンザーとなります。いずれの中毒量(マウス)は液状だと5mL/kgとなっています。体重が50kgの人だと250mL程度になりますが、原液を10mL飲むのも困難であり、私は意識がはっきりしている人で大量の原液を誤飲した症例の経験はありません。しかし、洗剤の誤飲は少量であれば問題にならないのかというとそうでもありません。第9回の化学眼外傷のときに紹介したとおり、強い酸性orアルカリ性の物質の場合は強い粘膜障害が生じる懸念があります。それらを誤飲した場合は、腐食性食道炎が生じ食道穿孔などが生じるリスクがあり、内視鏡検査や入院治療が必要になり注意が必要です4,5)。本症例は、茶渋をとるために強アルカリ(pH11.0~12.0)の次亜塩素酸塩配合の台所用漂白剤(キッチンハイター)を入れていたそうです。(3)誤飲状況の詳細と症状を確認では、強アルカリの物質を誤飲してしまった場合、すべて消化器内科を受診して入院が必要なのでしょうか? そんなことはありません。腐食性食道炎を生じるには、それなりの量が必要です。何mL飲めば生じる可能性が上がるという根拠は見つかりませんでしたが、先述のとおり洗剤は通常飲めないようにできています。ハイターの臭いをかいだことがあればわかると思いますが、あの匂いのものを間違えてごくごく飲むのはかなり無理があります。私は味わったことがないですが、誤飲した人に聞いたところ「苦いけど苦いとも言えない味、刺激が強い」とのことでした。意識がある人が飲めるものではありません。実際に腐食性食道炎を生じている患者が強酸性or強アルカリ性の物質を摂取した理由は自殺が最も多く、私が和文文献を探していて唯一自殺以外であったのが「酩酊状態の誤飲」でした4-6)。また症状としては、粘膜障害が生じるため咽頭痛、嗄声、嘔吐、心窩部痛が2~3時間以内に急激に生じます。今回の症例の場合、水で薄めたハイターをコップに入れていて、患者は一口飲んで吐き出したので飲んだには飲んだがほんの少しだけでした。症状としては口に苦い感じがするとのことでした。飲んだ量も少なく、濃度も薄い、さらに症状もほとんどありません。1時間ほど外来で経過をみましたが何もないため経過観察としました。治療に関しては、今回のようなケースではとくにすることはありません。少量誤飲してすぐの状態であれば、口をゆすいだ後に水を飲んでもらうくらいです。昔から食器用洗剤を誤飲した場合は牛乳がよいと言われていますが、効果のほどは定かではありません。プロトンポンプ阻害薬やアルギン酸を粘膜保護を目的に投与している施設もありますが、今回のようなほぼ無症状の人に対して投与する明確な根拠はありません。少なくとも私は中性洗剤の場合であれば処方はせず、帰宅後に何らかの症状が出現すれば再診としています。今回のような粘膜障害を生じうる洗剤を飲んだ場合は症状に合わせて3日分処方することもありますが、もし電話相談で「ハイターを飲んでしまった。症状はない」という相談が来たときに、プロトンポンプ阻害薬とアルギン酸を処方するために受診させたりはしません。今回は、台所用洗剤の誤飲に重点を置いて紹介しました。まとめますと、「意識がはっきりしている人が洗剤を誤飲したとして、大量に誤飲した可能性は低いためさほど恐れることはない」ということです。特殊なものを除き、家庭にあるほとんどの洗剤は同じストラテジーで対処できます。ただし、強い症状(嚥下時痛、嗄声、心窩部痛など)があれば内視鏡や胃洗浄などを行いますので、高次医療機関に相談してください。教科書や論文のレビューが少ないテーマなので経験がない人は不安になるかもしれませんので参考になればと思います。1)岡 陽一郎ほか. 日本臨床外科学会雑誌. 2007;68:2449-58.2)山本 龍一ほか. 埼玉医科大学雑誌. 2010;37:11-14. 3)消費者庁:高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう! 4)松村 英樹ほか. 日本臨床外科学会雑誌. 2015;76:714-719.5)De Lusong MAA, et al. World J Gastrointest Pharmacol Ther. 2017;8:90-98. 6)佐藤 雄亮ほか. 日本臨床外科学会雑誌. 2008;69:1658-1662.

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「糖尿病の名前の由来」に興味を持った患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第41回

■外来NGワード「そんなことは自分で調べなさい」(患者さんの質問に真摯に答えない)「尿に糖がでる病気だから、『糖尿病』なんです!」(誤解を招く説明)■解説国立国語研究所の「病院の言葉」をわかりやすくする提案の中で、「『糖尿病』という病名の認知率は高いが、その字面から「糖が尿にでる病気」として誤解されることが多い」と指摘しています。また、「糖」を「砂糖」のことだと単純に考え、「甘いものの摂り過ぎで起こる病気」と勘違いしている人も半数近くいたそうです。さて、この「糖尿病」という名前の病気、いつ頃から名付けられたのでしょう。紀元前1500年のエジプトのパピルスに「尿があまりにもたくさんでる病気」との記載があります。2世紀頃のカッパドキアのアイタイウスが「肉や手足が尿中に溶けてしまう病気で患者は一時も尿を作ることを止めず、尿は水道の蛇口が開いたように絶え間なく流れ出す」と記載しており、ギリシャ語のサイフォン(高い所から低い所へと水が流れる)を意味する“Diabetes”がこの病気の名前として用いられるようになってきました。その後、17世紀に入ると英国人医師のトーマス・ウイルスが糖尿病患者の尿が蜂蜜のように甘いことに気付き、“Mellitus”(ラテン語の「蜂蜜」)と名付け、“Diabetes Mellitus”となりました。これらの用語が日本に伝わり、「蜜尿とう」、「蜜尿病」、「糖尿病」(のちに蜜が糖であることが判明したため)などさまざまな病名で呼ばれていましたが、1907年の第4回 日本内科学会で「糖尿病」という病名に統一され、今日に至っています。ちなみに、下垂体後葉の病気で多尿を呈する「尿崩症」は“Diabetes Insipidus”と言い、病名の“Insipidus”とは「無味」の意味で尿が甘くないことを意味しています。■患者さんとの会話でロールプレイ患者コロナのワクチン接種の際に病名を記載するのに、私の病名は「糖尿病」「高血圧」「高脂血症」でいいですか?医師はい。「糖尿病」、「高血圧」、「高脂血症」あるいは「脂質異常症」でいいですよ。患者ありがとうございます。けど、糖尿病ってあまり印象の良くない名前ですね。医師確かに。「糖が尿にでる病気」と誤解している人も多いですよね。患者そうじゃないんですか?医師正しくは、血液中の糖、血糖値が高くなる病気です。その結果、尿に糖がでるわけで、高くなくても尿に糖がでる人もいます。患者へぇ~、そうなんですか。じゃあ、どうして「糖尿病」って名前になったんですか?「高血糖症」でもよさそうなのに。医師確かに。けれど、糖尿病という名前にしようとした頃、つまり100年以上も前は血糖を測定するのは今ほど簡単じゃなかったからですね。患者なるほど。それで「尿」の名前が付いているんですね。医師そうですね。参考となる症状も多尿でしたし、トイレが水洗でなく汲み取り式だった時代には汲み取り業者が甘い臭いから「この家には糖尿病の人がいる」と言っていたという話もありましたからね。患者へぇ~。尿でそんなことがわかるんですね。医師そうなんです。他にも尿でわかることがありますよ!患者それは何ですか? 是非、教えてください(興味深々)■医師へのお勧めの言葉「昔は尿に糖がでるということで『糖尿病』という名前が使われていましたが、正しくは血液中の糖分、血糖値が上がる病気ですね」 1)Lakhtakia R. Sultan Qaboos Univ Med J. 2013;13:368-370.

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9月26日 大腸を考える日【今日は何の日?】

【9月26日 大腸を考える日】〔由来〕9の数字が大腸の形と似ていることと、「腸内フロ(26)ーラ」と読む語呂合わせから、健康の鍵である大腸の役割や生息する腸内細菌叢のバランスを健全に保つための方法を広く知ってもらうことを目的に森永乳業株式会社が制定。関連コンテンツ潰瘍性大腸炎【希少疾病ライブラリ】腸内細菌の医療への応用【慢性便秘症特集】潰瘍性大腸炎へのミリキズマブ、導入・維持療法で有効性示す/NEJMアルコール摂取、大腸がんリスクが上がる量・頻度は?加齢や疲労による臭い、短鎖脂肪酸が有効

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第170回 相変わらずグダグダの岡山大病院、眼科で不正徴収発覚も検査の具体名公表せず。健康保険法違反、臨床研究指針逸脱の可能性も

謎が多く、首を傾げざるを得ない不透明な事件こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBも後半戦に突入したこの週末は、埼玉県の高校野球ファンの友人に同行して、上尾市にあるUDトラックス上尾スタジアムまで県大会3回戦の試合を観戦してきました。観戦した東京農大三高校対松山高校、熊谷商業対所沢高校の試合は3回戦ながらそれぞれ見ごたえある投手戦で楽しめました。しかし、おそらく40度は超えていたであろう観戦席の暑さには参りました(この日は埼玉や群馬など関東内陸部で軒並み39度を観測)。毎年、埼玉の県大会は何試合か現地で観戦しているので、暑さはそれなりに覚悟していたのですが、16日は桁違いでした。選手も大変そうで、ベンチに直射日光が当たっていた1塁側の農大三高では、試合中に何人の選手の足がつっていました。この先、温暖化が今以上に進むと、夏の全国高等学校野球選手権大会も地方大会から開催方法を真剣に考えなければならないかもしれません(朝5時試合開始とか)。選手だけではなく、観戦する側にとっても暑さはそれこそ死活問題になってきています。さて、今回は7月5日のNHKの報道で明らかになった岡山大学病院眼科で起きた検査費用の不正徴収について書いてみたいと思います。報道を読む限りでは、どうも謎が多く、首を傾げざるを得ない不透明な事件です。「目の中の液体を採取して病原体の有無を調べる検査」で3万円自費徴収7月5日、NHKは「岡山大学病院が、眼科で治療を受けていた複数の患者に対し、本来は病院が負担するべき検査費用を支払わせていたことが、関係者への取材で分かった」と報じました。NHKの報道によれば、岡山大病院は今年1月、眼科で治療を受けていた70代の患者に対し、目の中の液体を採取して病原体の有無を調べる検査を実施。この検査は大学病院が研究目的で行ったもので、本来費用は全額病院が負担するべきでしたが、3万円あまりの検査費用を全額患者に請求し、支払わせていたとのことです。患者から指摘を受けた大学病院は、不適切な請求だったことを認め、6月に検査費用を全額返金。その他にも不正徴収していた患者は20人以上おり、やはり返金したとのことです。なお、最初のNHK報道では「研究目的」とされていた検査は、その後「補助的検査」であったと岡山大病院は訂正しました。何か臭いますね。患者23人、総額は124万円NHKの報道を受け、各メディアも動き、岡山大病院は7月6日に眼科外来で患者23人の検査費用を誤徴取していたことが判明した、と正式に発表しました。岡山大病院が病院のウェブサイトに掲載したお詫びの文書、「岡山大学病院における検査費用の誤徴取について」によれば、自費診療で行った検査は診断の補助的検査として実施した検査で、「全額本院負担とすべきであった」として、誤って徴収していた患者23人にはすべて返金手続きを取った、とのことです。同病院は「今回の事例は、医師の保険診療への理解不足、患者さんへの説明不足等が招いたこと」として「患者さんやそのご家族、また地域の皆さまに、ご迷惑とご心配をおかけしましたことは深くお詫び申し上げます」と謝罪しています。なお、各紙報道等によれば、不正徴収が行われていたのは2019年4月~2023年2月で、目の炎症を調べる補助的な検査の費用として1人につき数万円程度徴収、総額は124万円に上っていました。1月下旬に受診した患者から大学宛に「全額負担はおかしいのではないか」との訴えがあり、病院側が調査を進めていました。NHK報道等で明るみに出たことで、7月6日の公表と相成ったわけです。「補助的な検査」とは何の検査だったのか?この報道を読んで、いくつかの疑問点が浮かんできました。一つ目は、「補助的な検査」とは何の検査だったのか、自費を徴収された患者の疾患は何だったのか、という点です。岡山大病院はWebサイトにわざわざ「お詫び文」を掲載しながら、肝心なその点について詳細を何も書いていません。NHKも各紙報道もその点について詳しく書いていません。岡山大病院が敢えて公にしていないと考えられます。これでは「私、ある悪いことをしました。ごめんなさい」と言ってるだけです。悪いことは何なのか、どう悪かったのか説明しないのでは、謝罪とは言えないのではないでしょうか。検査名や検査機器を隠さなければならない理由が何かあるのでは、と勘ぐってしまいます。本当に「補助的検査」だったのか?二つ目は、NHK報道で最初「研究目的」とされていた検査を、その後「補助的検査」と岡山大病院が訂正している点です。前田 嘉信病院長のコメントでもわざわざその点に言及しています。本当に「補助的検査」だったのでしょうか。実際には研究目的の検査で、しかも研究だという同意を患者から取っていなかったとしたら、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省による「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省、経済産業省)に抵触してしまいます。大学病院という研究機関にあって、この指針違反は重大な問題です。「患者さんへの説明不足等が招いたこと」と岡山大病院自身が謝罪している点も気になります。具体的な検査内容や検査機器、患者の疾患名がわからないとそんなことまで勘ぐってしまいます。保険診療と併せての自費検査は混合診療なのでは?三つ目は、保険診療と併せての自費検査は混合診療に該当し、健康保険法違反ではないかということです。保険診療においては基本的に、評価療養や選定療養などで定められた診療等について保険外療養費制度を活用する以外、自費診療との”混合”を認めていません。23人もの患者に堂々と混合診療を提供していたとは驚きです。岡山大病院は今年5月に中国四国厚生局長に報告書を提出したそうですが、仮に混合診療と判定されれば何らかの行政処分が下るはずです。自費徴収したお金はどこに流れていたのか?四つ目は、自費徴収したお金はどこに流れていたか、です。報道等では、発覚のきっかけとなる診療を担当した医師は、眼科で独自に料金を徴収、病院の正規の領収書とは別に、眼科独自の領収書も発行していたとのことです。眼科の医師が自分のポケットに入れていたのか、あるいは病院の会計に入れてたのか…。そもそも、保険外療養費制度を活用するにしても、病院の会計窓口ではなく、診療科の窓口で医師が自費の料金を徴収するなんて聞いたことがありません。「医師の保険診療への理解不足」と岡山大病院は説明していますが、本当にそうなのでしょうか。国立大学病院の診療行為で得たお金が民間企業へ?というわけで、岡山大病院の広報に問い合わせてみたという、知人の記者に何があったのか聞いてみました。彼によれば、岡山大病院は検査名や患者の疾患名の公表を頑なに拒んでおり、検査名、疾患名はわからなかったそうです。「とくに疾患名は患者さんのプライバシーもある」と言われたとのこと。医師が徴収していた「自費分については、検査機器のメーカーに全額行っていた」と答えたそうです。国立大学病院の診療行為で得たお金が民間企業へ?それが事実なら、それはそれで大きな問題です。検査機器メーカーも現時点で公表されていません。ガバナンス不全が際立つ岡山大病院岡山大病院(と同大医学部)の不祥事については、本連載では「第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず」でも書きましたが、その他にもいくつかの事件で世間を騒がせてきました。まず、新型コロナ関連の交付金の過大受給です。岡山大病院は、新型コロナの入院患者を受け入れる病床を確保した医療機関を補助するための「空床補償」と呼ばれる交付金を、実際よりも高額な病床の単価で申請し、2022年度までの2年間で、合わせて19億円余りを過大に受給していたことが判明しています。その他、岡山大前学長の槇野 博史氏のスキャンダルとして、「2,000万円の私的流用」と「3億円不正経理」が2023年2月14日付の週刊誌「FLASH」ですっぱ抜かれています。同記事は、「槇野氏は、岡山大学病院長時代、約2,000万円もの大学のお金を自身の趣味である写真に注ぎ込んだ。監査法人が2022年6月3日に3億円の不正経理を指摘しているにもかかわらず、大学はこのことを公表していない」と書いています。「FLASH」はまた、2023年3月7日付の「岡山大学病院『がん患者の半数が放り出される』異常事態に…シーメンス社と結んだ250億円契約を白紙撤回」と題する記事で、岡山大学病院がシーメンスヘルスケア社と交わしていた放射線治療装置、診療棟建設、機材の維持管理等の契約を2021年8月に突如白紙撤回した事件についても書いています。同記事は、この白紙撤回も槇野氏の判断で行われたと書いています。こう見てくると、旧六医大の一つで歴史ある岡山大医学部、岡山大病院ですが、ガバナンスに相当問題がありそうです。「患者さんの信頼にこたえられるような病院づくりをしてまいる所存でございます」と、今回の事件で前田病院長は殊勝なコメントしていますが、眼科の不正徴収について検査名、機器メーカーを公表しない、できないという事実だけでも、相変わらず「信頼」からは程遠い病院だなと思いました。

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第158回 またまた医師退職問題を起こしていた京都府立医大、移植チームの体制整え1年ぶりに腎移植再開

昨年春から腎移植の手術ができなくなっていた府立医大こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は野球観戦三昧でした。MLBだけでなく、日本のプロ野球も時折観ているのですが、セ・リーグでは読売ジャイアンツの低調ぶりが気になります。原 辰徳監督の采配や言動、オフでの首脳陣人事報道などを読むと、素人目にも少々“古臭いのでは”と感じるのは私だけでしょうか。選手を信頼し、選手に一定部分を任せ切ったWBCでの栗山 英樹監督のマネジメント手法との違いは明らかです。ジャイアンツの岡本 和真選手がWBC終了後の記者会見で「野球ってこんなに面白かったんだなあと思いました」と語ったそうですが、今のジャイアンツの野球が「面白くない」と言っているようで、なかなか興味深かったです。次のジャイアンツの監督に誰がなるのかについて、早くもマスコミは騒ぎ始めています。上から目線の古臭い権威主義や指導方法は、スポーツの世界からも一掃されていく流れなのかもしれません。権威主義と言えば、その最たるものがアカデミア、とくに大学医学部の世界です。ということで今回は、京都府立医科大学附属病院(京都市)で昨年春から腎移植の手術ができなくなっていた問題を取り上げます。4月11日、同大は再開後の1例目となる腎移植手術を3月末に実施した、と発表しました。同病院では昨年、移植外科の医師5人が相次いで退職。春以降、腎臓の移植手術ができない状態になっていました。市立大津市民病院の大量退職と並行して起こっていた移植外科での退職府立医大に関連する医師退職事件としては、昨年にこの連載でも何度か取り上げた地方独立行政法人・市立大津市民病院(大津市)の医師大量退職が記憶に新しいところです。昨年2月に発覚したこの事件では、府立医大病院勤務後に、大津市民病院の理事長となった医師(府立医大名誉教授)が、同病院の複数の診療科の医師を、京大出身者から府立医大出身者に半ば強引に入れ替えようとして、京大出身医師の大量退職を招きました。30人近くの医師が退職意向を示したことで地域医療は大混乱、結局、理事長、院長の交代と相成りました(「第121回 大量退職の市立大津市民病院その後、今まことしやかに噂されるもう一つの“真相”」ほか参照)。府立医大病院での腎移植の手術中止は、まさに大津市民病院の大量退職が起こっていた時期と並行して起きていたわけです。懲りないというか、流石というか、患者や地域医療は二の次に、大学の体面(やジッツ拡大)を優先する府立医大のスタンスは相変わらず揺るぎないようです。移植外科に所属していた6人のうち5人が退職府立医大病院で腎移植ができなくなっていることが表沙汰になったのは昨年10月でした。10月15日付の大阪読売新聞の報道によれば、府立医大学病院の移植外科に所属していた6人のうち5人が退職し、昨年4月以降、腎移植手術ができなくなっていました。移植外科は2018年に教授が定年退職した後、教授不在が続いていました。2022年2月に医師1人が転職を理由に辞めた後、3~4月にも3人が転職や留学を理由に退職。5月には同科のトップだった准教授も退職して医師が1人になり、手術停止に追い込まれました。各紙報道によれば、府立医大病院における2020年の腎臓移植手術件数は27件で、府内全体の約9割を占めていたそうです。2022年3月時点で、25組が生体腎移植を希望し、一部は検査を終えて手術が決まっていたとのことです。また、亡くなった人から提供される腎臓の移植手術(献腎移植)の待機患者も約200人いたそうです。生体腎移植を希望する25組のうち14組は京大医学部附属病院に紹介し、11組は他病院での手術を希望するか、府立医大病院で手術再開を待つことになりました。「前任教授の退職後から現在まで新たな医師の受け入れはゼロ」同病院は腎移植停止が発覚した10月時点で、医師たちの退職理由を明らかにしませんでしたが、2022年12月8日付の京都新聞は「『患者不在』学内からも批判 京都府立医大病院 腎臓移植中断問題」と題する記事で、その背景や理由について報じています。同記事は「退職の背景に教授の不在があった」と書いています。移植外科では2018年に当時の教授が定年退職してから約5年間、教授ポストの空席が続いていました。その結果、大学や病院内での移植外科の地位が低下、「前任教授の退職後から現在まで新たな医師の受け入れはゼロだった。それまで実施していた肝移植もできなくなり、在籍医師のキャリア選択の幅も狭まった」とのことです。「医師4人の退職意向が分かった今年1月下旬から2月上旬にかけ、准教授は残った2人で手術の継続は難しいと考え、泌尿器科などから支援を受けられないか掛け合ったものの、病院幹部らは消極的だった」と同記事は書いています。准教授(病院教授という肩書は持っていました)が病院幹部から受け取ったメールには「(移植外科)OBの意向を無視して(泌尿器科の協力を得るのは)現時点では困難」と記され、対応してもらえなかったそうです。また、同記事によれば、准教授は4人の医師の一斉退職の責任を押しつけられる形になり、結果、退職に追い込まれたとのことです。退職後、准教授はパワハラなどによって精神的な苦痛を受けたとして大学に対して申立書を提出、これに対し学長ら学内の管理職でつくるハラスメント対策会議は11月中旬までに「業務目的を大きく逸脱した言動とは言えない」とパワハラに該当しないと結論付けています。同記事は「准教授の代理人弁護士によると、准教授は病院幹部らから『新しい移植体制では君をリーダーにすることはあり得ない』と責められた」とも書いています。泌尿器科内に移植チームを急遽立ち上げ腎移植停止が表沙汰になったことで流石に慌てたのか、各紙報道によれば、府立医大は泌尿器科内に急遽移植チームを立ち上げ、同科の3人の医師が移植手術を、腎臓内科をはじめとする複数科のスタッフが術後管理などを行う体制を整え、11月には日本腎臓学会に腎臓移植施設資格の再認定を求める申請書を提出しました。再認定後、2023年1月から新規の外来受け付けを再開、3月29日に再認定後1例目となる生体腎移植が実施され、4月11日の公表に至ったというわけです。メディアが報じる10月まで府立医大は腎移植停止を公表せずそれにしても、府立医大の関連病院である大津市民病院の医師大量退職事件とほぼ時を同じくして、“本丸”である府立医大病院でも退職問題が起こっていたとは驚きです。しかも、移植外科の医師退職と腎移植の停止は、メディアが報じる10月まで、その事実を公表していませんでした。それまで府内の腎移植のほとんどを手掛けており、患者にとってはまさに生きるか死ぬかの問題だったにもかかわらず、です。さらに、移植外科の准教授が病院幹部に対して泌尿器科への協力依頼を行っていたにもかかわらず、医局の都合を優先してか「現時点では困難」と判断していました(その後の報道で事態が表沙汰になってから、泌尿器科による移植チームを編成)。移植を待つ患者は二の次で、大学や医局の都合を重視するかのような対応からは、大津市民病院の医師退職の時の同病院元理事長の言動と共通するものを感じます。それはある意味、府立医大の“学風”と言えるかもしれません。准教授のパワハラの申し立てに対し、学長ら学内の管理職でつくるハラスメント対策会議が「パワハラに該当しない」と結論付けている点も気になります。少なくともこうした調査や判定は第三者によって行われるべきものです。自分たちもパワハラの当事者かもしれないのに、内部者だけで調査し、結論を下すのは言語道断でしょう。確か、大津市民病院の大量退職に際しても、一部の医師からパワハラとの主張があったものの、当初は病院内部の検証で否定されていました(その後、事件が大きくなってから第三者委員会を組織)。2010年代、度々世間を騒がせた府立医大2010年代、府立医大はディオバン事件(バルサルタン臨床研究:Kyoto Heart Study論文撤回)、暴力団総長の虚偽診断書作成事件(当時の病院長の指示で虚偽の診断書や意見書をつくったとされる事件。病院長は不起訴となるも総長との関係が指摘された当時の吉川 敏一学長は再任を辞退)、名誉教授強制わいせつ事件など、さまざまな事件を起こし、世間を騒がせました。そう言えば、暴力団総長の虚偽診断書作成は移植外科が舞台で、当時の移植外科の教授が病院長でした。この教授の退官後、移植外科の教授の空席が続き、残った准教授が、病院教授の肩書を持ちつつも移植外科の教授にはならないまま腎移植を切り盛りしていた結果、医局が破綻してしまったというのが今回の流れのようです。大学を去った元准教授はメスを捨て、京都の山奥の国保診療所で地域医療に従事しているという情報もあります。2020年代も府立医大は、本来の診療や研究以外の部分で世の中を騒がせ続けるのでしょうか。『白い巨塔』の世界のような古臭い権威主義は、医療の世界からそろそろ消えてもらいたいところなのですが……。

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第141回 神対応の大規模接種会場!モデルナBA.4-5対応ワクチン求め行ってきた

無事2023年に入ったが、世はいまだ新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の第8波の真っ最中である。そうした中で一つの重要な対策であるオミクロン株対応ワクチンの国内接種率は1月4日現在、35.8%。65歳以上の高齢者に限定すると60.2%。全人口で見ると、やや心もとない接種率に見えなくもない。もっとも接種対象者のうち第7波、第8波で感染した人たちが接種保留状態にあることを考えると、まずまずの数字なのではないかと個人的には考えている。そのような中で年の瀬の12月27日、私はようやく新型コロナ・オミクロン株対応ワクチンによる4回目接種を完了した。「ワクチンマニア」を自認する人間としては遅過ぎるとのご批判も受けそうだが、その理由は何よりもオミクロン株BA.4-5対応のモデルナ製ワクチンの承認を待ったためである。従来の研究からファイザー製ワクチン接種者より、モデルナ製ワクチン接種者のほうが抗体価は高めであるとの研究報告は多いからだ。年明けから受験を控える子供を持つ親にとっては、こうしたちょっとした差も気になってしまうのだ。ご存じのようにモデルナ製のBA.4-5対応ワクチンは、ファイザー製から約1ヵ月遅れて承認され、現場での流通は11月下旬から始まった。それ以降、私はいつ自分の居住区で使用されるかと逐次情報をチェックしていたが、12月中旬になってからもその兆しは皆無だった。各方面に問い合わせると、どうやら東京都に関しては、当面、モデルナ製BA.4-5対応ワクチンは、ほぼ都の大規模接種会場での使用一択と判明した。ならば大規模接種会場ですぐに受ければ良いと思われそうだが、自分の場合、接種した場所で、保有する世界保健機関(WHO)版と米国疾患予防管理センター(CDC)版のイエローカード(国際予防接種証明書)への記録記載もお願いしたいため、個別医療機関での接種のほうが何かと都合が良い。しかし、当面居住区の個別医療機関に回ってこないとなると、もはや大規模接種会場で接種するしかなかった。しかし、問題は大規模接種会場で“イエローカード記入”という手間を取ってもらえるか否かである。やむなく12月の第4週に東京都庁に電話し、イエローカードへの記載を行ってもらえるかを問い合わせた。最初に対応してくれた福祉保健局感染症対策部防疫・情報管理課の担当者からは「イエローカード? はあ、そういうのがあるんですね」と言われ、大規模接種会場担当者に電話を回された。こちらでもほぼ同様の反応だったが、希望する接種会場に問い合わせて折り返しするとのこと。最終的に会場から記入対応可能との回答をいただいた。大規模接種会場の担当者からは「イエローカードへの記入要望があることをあらかじめ会場側に伝えたいので、予約が完了したら予約日時と予約番号を教えて欲しい」と言われた。そこで、接種予約を入れてその日時を担当者に再度電話。また、同時接種可能なインフルエンザワクチンも打ちたかったので、同じ日に馴染みのK先生のところでの接種を予約した。当日の午前11時、都内のK先生のクリニックでインフルエンザワクチンの接種を完了。同時に新型コロナのスパイクタンパク抗体検査用の採血もしてもらった。そこから新宿に移動。昼食を終えてから都庁近くのカフェで仕事をして午後3時の接種時間を待つ。接種予定時間10分前に都庁に行き、1F受付で接種予約確認後、検温。接種の予診票には、接種予約をしたワクチンの種類が大書されたカードが張り付けられた。アナログとはいえ、ワクチン選択ミスを防ぐ手段としてはそこそこ以上に有効だろう。会場となる北展望室接種センターがある45階へエレベーターで昇った。ちなみに会場は撮影禁止である。エレベーターを降りると、目の前の空間はファイザー(BA.1、BA.4-5)、モデルナ(BA.1、BA.4-5)、ノババックスと接種ワクチンの種類ごとにラインがパーテーションポールで仕切られていた。迷わずモデルナのラインに入り、それに従って進むと、そのまま予診室BOXへ案内された。一通り予診票を確認した予診担当医師から「体調が悪いとかはありませんか?」と尋ねられたので、「とくにありません」と答えると、そのまま医師の背後を通過して予診室入口と反対側に通り抜けするよう指示され、その先にある接種室BOXへ。今度は、接種担当医師による再度の予診票確認後、「どちらの腕にします?」と聞かれたので、インフルエンザワクチンを打ったのと反対側の左腕への接種を依頼した。指示通り手をだらんとぶら下げて、「チクッとしますね」と言われるやいなや「はい、終了です」。今までで一番短時間だった気がする。医師にアレルギー体質なのでアナフィラキシーチェックは30分でお願いしたいと伝えたところ、予診票をじっと見つめて「じゃあ、ここ修正してもらえます」と指で示された。ああ、確かに「アレルギーなし」に丸をしていた。実はここで気付いたのだが、これまでの個別医療機関での接種時はアレルギーの有無で無に印をつけていた。何となく文面が直接的な薬物や食物へのアレルギーを尋ねているようにしか読めなかったからだが、こういう場合、気になるところは念のため書いておくべきだったと反省。ということで修正した。私が修正を提出すると、接種担当医師が予診BOXのほうに予診票を持って行き、予診担当医師と二言三言。こうやってきちんと細かに情報共有や確認を行うのだと、改めて感服した。接種BOXを出て、順路に沿って進むと、パイプ椅子が並ぶアナフィラキシーチェック待機場へと到着する。その中でやはりパーテーションポールで区切られた30分待機者用区画に案内された。職員の指示で「こちらの席にどうぞ」と言われて座るも西日がきつい。職員もそれに気づいて、椅子を動かし、「こちらでどうでしょう?」と日陰に誘導してくれた。着席直後、看護師から「ちょっとでも具合が悪いと思ったら遠慮なく仰ってください」と伝えられる。愛知県愛西市の接種会場での死亡事例もあって、この辺は厳格化したのかもしれないが、行き届いた対応である。とりあえずスマホで仕事の資料をチェックしていると、あっという間に30分が経過。職員の誘導に従って最終コーナーの接種済み証交付窓口に。ここで例のイエローカードの記入を申し出る。WHO版、米・CDC版の2種類のイエローカードを提出したのだが、どうやらロット番号シールが1枚で済むと思っていたらしく、職員があたふたし始めた。もともと一覧性に優れている米・CDC版を使い始めたのだが、反米国家に行く頻度が多く、イエローカード内の「U.S」が時に厄介なことになりかねないので2種類を運用している。職員2人で「うん、こっち(WHO)は見たことがあるけど、こっち(CDC)は初めて見た。どこの?」とゴニョゴニョ。私が「それは米・CDC版です」と伝えると、「ほー」と言いながら2人とも穴が開くかと思うほど凝視している。記入を待っている間、出口に山積みされた『免疫』のキャッチフレーズが付いたドリンクを勧められる。接種者は1人1本いただけるらしい。まあ、本音で言うと「免疫」を名乗る商品は胡散臭いとしか思わないが、さすがに害はないだろうと思い、ありがたく1本いただき、粗野な私はその場で一気飲みする。最終的に2枚のカードにロット番号シールが貼られ、無事終了。ついにCDC版イエローカードは3枚目となった。今回、初めて経験した大規模接種会場だが、驚くほどシステマティックかつ行き届いた運営がなされていた。これも約2年に及ぶワクチン接種事業の賜物なのだろう。さて、この翌日にはK医師のところで受けた新型コロナのスパイクタンパク抗体の検査(試薬はロシュ・ダイアグノスティックス)結果が届いた。3回目接種から10カ月を経過した時点の私の抗体価は4,521 U/mL。以前、2回目接種から4ヵ月後に測定した際にK医師から「僕の10倍はある」と言われた時と、数値はほぼ同じ。3回目接種から10ヵ月も経っているのにもかかわらずだ。思うに1~2回目はファイザーで、3回目をモデルナという抗体価が上がりやすい交差接種にして、その直後に抗体価が爆上がりしたのだろうか。ちなみに同時に新型コロナウイルスへの感染履歴がわかるヌクレオカプシド(N)タンパク質抗体の検査も行っており、その結果ではここ最近、無症候も含む感染歴はないことも判明し、ややほっとした。が、それもつかの間。その後、やや怒涛とも思える事態に遭遇することになるが、それは機会があれば次回以降で。また、本年も宜しくお願い致します。

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1日1回投与に改良した高純度EPA製剤「エパデールEMカプセル2g」【下平博士のDIノート】第104回

1日1回投与に改良した高純度EPA製剤「エパデールEMカプセル2g」今回は、高純度EPA製剤「イコサペント酸エチルカプセル2g(商品名:エパデールEMカプセル2g、製造販売元:持田製薬)」を紹介します。本剤は、既存のエパデールカプセルおよびエパデールS(以下、既存薬)の消化管吸収を高めて1日1回投与にした薬剤であり、トリグリセリド(TG)高値を示す脂質異常症患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、高脂血症の適応で、2022年6月20日に承認されました。なお、既存薬は「高脂血症」と「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛および冷感の改善」の適応を有していますが、本剤の適応は「高脂血症」のみです。<用法・用量>イコサペント酸エチルとして、通常、成人には1回2gを1日1回、食直後に経口投与します。TG高値の程度により、1回4gを1日1回まで増量することができます。本剤は抗血小板作用を有するため、抗凝固薬や血小板凝集を抑制する薬剤との併用により、相加的に出血傾向が増大するため注意が必要です。<安全性>国内第III相試験において、副作用の発現頻度は本剤2g/日群で9.8%(6/61例)、本剤4g/日群で8.2%(5/61例)でした。2%以上に認められた副作用は、本剤2g/日群で下痢3.3%(2/61例)、本剤4g/日群で軟便3.3%(2/61例)でした。重大な副作用として、肝機能障害、黄疸(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、肝臓における過剰な中性脂肪の合成を抑制するとともに、余分な中性脂肪の代謝を促進することで、脂質異常症を改善します。脂質異常を改善することで、動脈硬化性疾患の進行を抑えることが期待できます。2.血が止まりにくくなることがあるので、手術や抜歯の予定がある場合は事前に相談してください。3.空腹時の服用では薬剤の吸収が低下するため、食後すぐに服用してください。4.軟カプセルの中には魚の臭いがする油状の成分が入っているため、噛まずに服用してください。5.脂質異常症の治療の基本は、食事・運動・禁煙などの生活習慣の改善です。本剤の服用中も継続して行うことが大切です。<Shimo's eyes>エパデールEMカプセルは、既存のEPA製剤であるエパデールカプセル、小型軟カプセルのエパデールSを消化管で吸収されやすくした高純度改良版です。既存薬は1日2回または3回の服用が必要ですが、本剤は1日1回の単回投与です。エパデールSと同様にアルミスティック包装となっています。既存薬からの切り替えの場合、既存薬1.8g(エパデールS900を1日2回)が、本剤2g 1日1回に相当するように開発されています。エパデールEMカプセル2gの薬価は113.00円、エパデールS900の薬価は62.7円/包(2包で125.4円)、エパデールS600の薬価は46.5円/包(3包で139.5円)ですので、1日薬価の負担は本剤のほうが少なくなっています。なお、本剤の粒子径(約6mm)は、既存薬のエパデールS(約4mm)と比較してやや大きくなっています。EPAの成分は脂肪酸であり、胆汁の主成分である胆汁酸がないと吸収が低下しますが、本剤は体内で脂質成分が界面活性剤と自己乳化することで吸収性が向上し、1日1回投与が可能になりました。本剤は既存薬に比べて食事の影響を受けにくい製剤ですが、食直後の服用でより吸収が高まるため、本剤も食直後の服用となっています。生活習慣病患者はしばしばアドヒアランスの不良が問題となりますが、本剤は1日1回の単回投与であるため、アドヒアランスの向上が期待できます。とくに併用される機会の多いHMG-CoA還元酵素阻害薬の主な用法が1日1回であることからも、本剤のニーズは高いと考えられ、TG高値を示す脂質異常症患者の選択肢を増やす薬剤として意義があるでしょう。

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空港の検疫探知犬はCOVID-19を正確に嗅ぎ分ける

 空港で入国者の手荷物から違法薬物や危険物を嗅ぎ分ける探知犬が、訓練すると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者を特定できるようになることが報告された。ヘルシンキ大学(フィンランド)のAnu Kantele氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Global Health」に5月16日掲載された。 この研究ではまず9頭の探知犬を、新型コロナウイルス感染者を特定できるようにトレーニングした。感度(COVID-19感染者を「感染している」と犬が判定する確率)と特異度(非感染者を「感染していない」と犬が判定する確率)ともに80%以上に達した4頭を選び、COVID-19患者や地域住民を対象に探知力をテスト。その後、実際に国際空港の到着ゲートに設置した専用ゲートで、乗客や乗員を対象とするテストを行って、実用性を検討した。 前者のテストでは、まず420人の皮膚をスワブでこすって臭いを付けた検体を4セット作成。それを4頭の探知犬に嗅がせて判定させて、その結果を鼻腔スワブ検体によるPCR検査の結果と比較した。犬を誘導するスタッフや研究アシスタントは、PCR検査の結果を知らされていなかった。なお、420人中114人がPCR検査陽性者だった。 解析の結果、探知犬のCOVID-19感染者の特定能力は、感度92%、特異度91%となった。また、陽性的中率(犬がCOVID-19感染者と判定した人に占めるPCR陽性者の割合)は84%、陰性的中率(犬がCOVID-19感染者でないと判定した人に占めるPCR陰性者の割合)は96%だった。PCR陽性者のうち28人は無症候性感染だったが、探知犬はその89%をCOVID-19感染者と正しく判定していた。 続いて行われた国際空港での実用性の検討では、303人の乗客・乗員が対象とされた。そのうちPCR陽性者は3人のみだった。探知犬の判定は97.7%(303人中296人)の確率でPCR検査の結果と一致し、300人のPCR陰性者の98.7%(300人中296人)を感染者でないと正しく判定した。 犬が見逃した3人の陽性者のうち1人は再検査の結果、陰性と診断された。他の2人のうち1人は再検査で陽性が確定し、もう1人は陽性である可能性が高いと判断された症例だった。一方、探知犬は4人のPCR陰性者をCOVID-19感染者と判定したが、その4人は再検査でも陰性だった。 空港での実用性のテストではCOVID-19感染者がわずかであったことから、改めて155人のCOVID-19患者から採取した検体を探知犬に判定させた。すると98.7%をCOVID-19感染者と正しく判定した。この155人が実際に空港の到着ゲートを通過したと仮定すると、探知犬のCOVID-19患者の判定能力は、感度97%、特異度99%になると計算された。 次に研究者らは、これらのデータに基づいて、一般住民のCOVID-19有病率が40%と1%の場合での、探知犬の陽性的中率と陰性的中率をシミュレーションした。その結果、有病率40%では陽性的中率87.8%、陰性的中率94.4%、有病率1%では同順に9.8%、99.9%と推定され、有病率が高い集団でも低い集団でも、探知犬がスクリーニングに役立つ可能性が示された。 なお、前記の空港での実証テストは2020年9月から翌年4月という、新型コロナウイルスが野生株からアルファ株に移行する時期に実施された。探知犬のCOVID-19感染者判定力はアルファ株の場合に低下していたが、その理由はトレーニングの際に野生株を用いていたためであるという。著者らによると、「既にCOVID-19感染者特定能力を獲得している探知犬は、数時間再訓練をするだけで、別の変異株の感染者も特定できるようになる」とのことだ。 犬は、細菌やウイルス、寄生虫の感染時に生成される成分を含む、体内のさまざまな代謝プロセスによって放出される成分の臭いを嗅ぎ分けられると考えられており、がん患者を特定する能力を持つ犬の存在も知られている。著者らによると、犬の嗅覚は機械的な方法で検出可能なレベルの1兆分の1の成分量でも嗅ぎ取ることができるほどだという。 Kantele氏らは本研究の総括として、「COVID-19感染を確認する手段が限られているような状況においては、感染者を特定する能力を獲得した探知犬が役立つと考えられる。ただし、本研究の結果は有望ではあるものの、リアルワールドで有効性を検証する必要がある」と述べている。

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新型コロナ感染による脳への影響、わかってきたこと【コロナ時代の認知症診療】第13回

新型コロナ感染後、認知機能に変化2022年1月に始まったCOVID-19のオミクロン株によるコロナ第6波はピークは越えたものの、感染者数は3月時点でも高止まり状態が続く。これまでの波のうち、最大、最長のものになっている。さて2020年初頭の流行初期から嗅覚低下・脱失の症状は報道されてきた。これを除くと従来は、COVID-19と脳あるいは認知機能との関係はそう注目されてこなかった。しかしこれは重要な観点である。スペイン風邪(Spanish Influenza)は第1次世界大戦中にパンデミックとなった最初の人畜共通感染症である。実はこの疾患においても、認知症症状(Brain fog:脳の霧)の発生が気づかれていたのである。さて流行開始からでも2年余りが過ぎて、このCOVID-19による認知機能障害に関して本格的な臨床研究が報告されるようになった。まず武漢における縦断研究は、感染による認知機能の変化に注目している。平均年齢69歳で感染者1,438名を対象、平均年齢67歳の438名をコントロールにして、1年間の認知機能の推移を比較している1)。対象をCOVID-19の身体症状から重篤と非重篤に分けて比較している。また認知機能は重篤度に応じて4段階に分けられている。その結果、軽度の認知機能低下を生じる危険性はCOVID-19の身体症状重篤群でオッズ比が4.87、非重篤群で1.71であった。さらに驚くべきは、身体症状重篤群では進行性認知機能低下を生じるオッズ比が19.0と極めて高かったことである。嗅覚異常の背景に、脳の構造学的な異常かさて次に、感染による脳構造変化についての画像研究が英国から報告されている2)。401名の感染者(51~81歳)が対象で、平均141日間隔で頭部MRI画像が撮像されている。なおコントロールは384名である。その結果、次の3つの所見が得られている。1)前頭葉の眼窩皮質との萎縮がみられたこと。前頭眼窩面には嗅覚や味覚情報が収斂している。またここは、有名な報酬系、動機付けや学習行動と関連する部位であり、偏桃体を中心とする辺縁系と深い結びつきがある。とくに臨床的に有名なのは、ここに病巣をもつピック病では、抑制欠如や脱抑制の表れとして反社会的行為が生じることである。また海馬傍回は海馬の周囲に位置し、記憶の符号化と検索の役割を担っている。なおこの前部は嗅内皮質を含んでいる。このような機能を持つ大脳領域に萎縮を認めたのである。2)一次嗅覚路と機能的に結ばれている脳部位の組織破壊が認められたこと。さてヒト嗅覚系には2種類あるが、一次および二次嗅覚皮質は下図において、それぞれ青と緑で表される。一次嗅覚系は、匂い物質を受容する嗅神経が存在する嗅上皮、嗅神経の投射先である主嗅球、さらに嗅球からの投射を受ける梨状皮質などの嗅皮質から構成されている。こうして一次嗅覚系は主に一般的な匂い物質の受容に関わっている。このように、流行当初から指摘されてきた「臭わなくなった」症状の基盤として、こうした形態学的な異常がわかったのである。3)脳全体の萎縮が認められた。このことは、COVID-19の大脳への影響は、嗅覚路を中心に前頭葉と辺縁系で大きいが、脳全体にも及ぶことを意味している。さてなぜこのような病理学的変化がもたらされるのだろうか? まずCOVID-19感染によって脳低酸素症が誘発される。これは、脳のエネルギー産生工場といわれるミトコンドリア機能不全が関わると考えられてきた。この低酸素脳症が基盤にあることは納得できる。一方でこの脳画像研究の筆者たちは、今回の研究結果から2つの可能性を考えている。まず感染が、嗅覚路を侵略経路として大脳辺縁系を中心とする系統的変性が生じさせる可能性である。次に嗅覚脱失によって臭いの感覚の入力がなくなることが大脳辺縁系変性につながっている可能性である。そして最後にこの嗅覚の障害が治るか否かについては、まだわからないとされている。第7波にも注意が喚起されるようになった今日、COVID-19による中枢神経系障害に対する注意がさらに求められるだろう。参考1)Liu YH,et al. JAMA Neurol. 2022 Mar 8. [Epub ahead of print]2)Douaud G, et al. Nature. 2022 Mar 7. [Epub ahead of print]

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人は病気になってから予防する【Dr. 中島の 新・徒然草】(416)

四百十六の段 人は病気になってから予防する皆さん、禁煙指導にはいろいろな工夫をしておられることと思います。私は最近、「タバコをやめろ」とガミガミ言っておりません。あまり効果を感じられないからです。それに結局は個人の自由でもありますから。さて、今回来院されたのは50代の女性、主訴は慢性咳嗽。「咳が続くので下気道のほうに原因はないでしょうか?」という近所の耳鼻科からの紹介です。彼女の登場とともにモワッとしたタバコの臭いに気づきました。中島「かなり吸うほうですか?」患者「1日に1箱半ぐらいかな」中島「そうすると1日15本か」患者「いや1箱半なので30本です」中島「ああ、1箱は20本でしたね、すみません」タバコの本数をきかれると〇箱と答える喫煙者が多いですね。でも、ブリンクマン指数を計算するには本数に換算しなくてはなりません。1箱が何本だったか、ちゃんと覚えておかないと。中島「二十歳からだとすると、30年以上吸っておられるのですね」患者「途中何回も禁煙したんで、30年になるかならんかぐらい」中島「やっぱりやめるのは難しいですか?」患者「うーん、もう諦めた」中島「とりあえず胸のレントゲンを撮ってみましょう」何の気なしに撮影した胸部レントゲン。よく見ると、直径2センチくらいの円形のようなものが見えます。果たして結節影と呼ぶべきか否か、ぬぬぬ。見れば見るほど怪しい気がします。疑心が暗鬼を生むとはこのことでしょうか。以前の胸部レントゲンもありません。あったら今回のものと比較できるのですけど。患者「何かありますか?」中島「ここのところがね、なんか丸く見えるでしょ?」患者「あーっ! ホンマや」中島「もうちょっと詳しく調べたほうが良さそうに思うんですよ」患者「何か悪いものができてるってこと?」中島「いや、まだそうと決まったわけではないのですけど」患者「あかん、頭の中が真っ白になってもた」決着をつけるために胸部CT撮影の手配をしました。中島「今さらですけど、禁煙しましょうか」患者「うん、もうやめるわ」ということで胸部CT撮影後の再診時のテーマは、円形に見えたものは何らかの病変か正常構造物か?本当にタバコをやめることができたのか?といったところです。もし、胸部CTで異常がなかった場合、これで安心だとタバコを吸うのか?もうタバコはやめてしまうのか?どちらになるのかも確認しておきたいです。そういえば1990年代出版の『医療の大法則』という本に、「人は病気になってから予防する」というのがあったような気がします。確かに、肺がんと診断されたとたん禁煙する人は沢山見ました。しばらく彼女の経過を見守りたいと思います。最後に1句 禁煙し ふっと気がつく 沈丁花 

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『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版』が発刊

 日本がんサポーティブケア学会が作成した『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版』が10月20日に発刊した。外見(アピアランス)に関する課題は2018年の第3期がん対策推進基本計画でも取り上げられ、がんサバイバーが増える昨今ではがん治療を円滑に遂行するためにも、治療を担う医師に対してもアピアランス問題の取り扱い方が求められる。今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂は、分子標的薬治療や頭皮冷却法などに関する重要な臨床課題の新たな研究知見が蓄積されたことを踏まえており、患者ががん治療に伴う外見変化で悩みを抱えた際、医療者として質の高い治療・整容を提供するのに有用な一冊となっている。 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版は、これまで“がん患者に対するアピアランスの手引き 2016年版”として公開してきたものをMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017に準拠し作成、ガイドラインに格上げされたものだが、この作成委員長を務めた野澤 桂子氏(目白大学看護学部 看護学科/国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)に注目すべき点やアピアランスケアにおける患者への寄り添い方について伺った。アピアランスケアガイドラインと医学的エビデンス 今回、がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版を発刊するにあたり、野澤氏は「僅少の研究からエビデンスとなるものを抽出し推奨度を決定するのは困難を極めた。さらに、下痢や発熱などの副作用と異なり、直接は命に関わらない外見の副作用に対するケアを患者QOLと医学的エビデンスとのバランスの中でどうアピアランスケアガイドラインに反映させるか、今回の課題だった」と言及した。その一方で、エビデンスを重視し過ぎる医療者に危機感も感じたという。「支持療法の評価を、がん治療の効果を評価するのとまったく同じ手法で評価する必要がどこまであるのだろうか。ハードルが高すぎて、同じ労力なら支持療法より治療法の研究をしようとする研究者も増えるかも知れない」とし、「医療者は、ゼロリスクにするために少しでも危険を避けようとするが、たとえば、日用整容品の注意事項に書かれている“病中病後の使用はお控えください”という言葉もがん患者のエビデンスがあるとは限らない」と指摘した。また、「炎症や肌荒れがなく患者さんの希望があれば挑戦してほしい。医療者は、患者さんがその挑戦のメリットデメリットを判断できるような情報を提供することが重要」と説明した。アピアランスケアガイドラインが医療者のエビデンス呪縛を解く また、同氏は医療者のアピアランスケアの現状について「医療者は根拠なく患者さんの生活を限定させるような指導を行うべきではない。人間は息をするためだけに生きているのではない。その人らしく豊かに過ごすための時間にできなければ、患者さんにとって意味がないともいえる」と強調した。 そんな野澤氏も以前はざ瘡様皮疹が出現した患者さんには、当時言われていたように、症状の悪化を懸念してフルメイクではなくポイントメイクを推奨していた。しかし、ある患者さんの一言でケアの在り方を見直したのだという。“ポイントメイクでは隠したいブツブツが隠せない。私は可愛いおばあちゃんと言われることが生きがいだったのに、これでは孫に会えない。効いてる限り死ぬまで使う薬なのに、そもそも生きている意味がないじゃない”と患者さんに迫られた経験談を話し、「その時にケアに対する認識の転換期を迎えた。アピアランスケアがほかの副作用対策と異なるのは、“命に直接関わらない”ということ。ケアに挑戦して何かあってもそれに対する対策はある。重要なのは、患者さんが納得した選択ができること、その人らしさを表現できることではないか」と語った。がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版はある意味、医療者のエビデンス呪縛を解くための指南書の役割もあるのだろう。アピアランスケアガイドライン、治療に応じた患者管理がスムーズに 今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂では、各章の項目がひと目でわかる「項目一覧」というページが追加されている。ここでは分類(症状や部位)、番号(BQ:background question、CQ:clinical question、FQ:future research question)の項目分類が一覧になっており、研究の状況がわかると同時に、気になるページにすぐたどり着くようになっている。また、各章に総論が設けられており、治療ごとの現状など、本書の読者の理解が促される仕様になっている。たとえば、化学療法編では、「レジメン別脱毛の頻度」や「レジメン別の手足症候群の頻度」が表として掲載され副作用の発現率に注目することで、実際の治療に応じた患者管理がしやすくなっている。 各章の変更点については、5月に開催された日本がんサポーティブケア学会の特別シンポジウム『アピアランスケア研究の現状と課題~アピアランスケアガイドライン2021最新版を作成して~』にて、作成委員会の各領域リーダーらがトピックを解説。そこで挙げられた注目すべき点やアピアランスケアガイドラインの改訂にて変更されたquestionを以下に示す。<アピアランスケアガイドライン項目ごとの追加・改訂点>―――治療編(化学療法)・CQ1:化学療法誘発脱毛の予防や重症度軽減に頭皮クーリングシステムは勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→周術期化学療法を行う乳がん患者限定。また、レジメンごとの脱毛治療の成功・不成功を踏まえた上で患者指導やケアが必要とされる。・CQ8:化学療法による手足症候群の予防や重症度の軽減に保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[とても弱い]、合意率:94%)・CQ10:化学療法による手足症候群の予防や発現を遅らせる目的で、ビタミンB6を投与することは勧められるか(推奨の強さ:3、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:94%)治療編(分子標的療法)・CQ17:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防あるいは治療に対してテトラサイクリン系抗菌薬の内服は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→皮膚障害のなかで代表的なのが「ざ瘡様皮疹」だが、無菌性であることが特徴。テトラサイクリン系は抗菌作用のみならず抗炎症作用を持ち合わせており、この効果を期待して使用される。・FQ16:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して過酸化ベンゾイルゲルの外用は勧められるか。治療編(放射線療法)・CQ28:放射線治療による皮膚有害事象に対して保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[弱]、合意率:乳がん-100%、頭頸部-94%)→強度変調放射線治療(IMRT)の普及に伴い、線量に関する規定が削除され、“70Gy相当”の文言が削除された。・FQ31:軟膏等外用薬を塗布したまま放射線治療を受けてもよいか日常整容編スキンケア(洗顔やひげ剃りなど)、カモフラージュとしてのメイクやつけまつげに関する項目は漠然としていたので今回は項目より削除。また、手術瘢痕へのテーピングについてはカモフラージュという表現から“顕著化を防ぐ方法”に変更されている。・BQ32:化学療法中の患者に対して、安全な洗髪等の日常的ヘアケア方法は何か→頭皮を清潔→決まった回数は存在せず、臭いや痒みに応じてでも構わない。シャンプーも指定品があるわけではないので患者の嗜好に応じたものをアドバイスする。・BQ37:がん薬物療法中の患者に対して勧められる紫外線防御方法は何か→前回あまり触れられていなかった衣服について盛り込まれた。・FQ42:乳房再建術後に使用が勧められる下着はあるか――― 今回は43項目(FQ:19、CQ:10、BQ:14)が出来上がったものの、患者の生命に直接関わるわけではない点がボトルネックとなりエビデンスレベルの高い研究が今後望まれる。次回の課題として「研究の蓄積、免疫チェックポイント阻害剤の皮膚障害に関する項目が盛り込まれること」と同氏は話した。アピアランスケア実践でがん患者を治療ストレスから開放 アピアランスケアを実践することは患者の自己表現を容認するものであり、治療効果ひいては生存率にもかかわってくるのではないだろうか。同氏は「患者さんにはもっと安心して治療をしてもらいたい。今は外見の副作用コントロールのための休薬・減量のスキルも進歩してきており、不安なことはケア方法含めて医療者に聞いて欲しい。そして、医療者はエビデンスをベースとしつつも、個々に応じた対応を心がけることが必要」と締めくくった。

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第75回 【特集・第6波を防げ!】政治家の目論見?コロナ陰性証明が自腹の怪

希望者全員へのワクチン接種が初冬には完了することを見越した国民の行動制限緩和案として、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部がこのほど発表した「ワクチン接種が進む中における日常生活回復に向けた考え方」。大都市圏を中心に年初からこれまでの期間のほとんどが、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が適用されている。出口の見えないコロナ禍に対して蓄積した国民の不満をワクチン接種の進展に応じて少しでも解消したいという思いがあるのだろう。と言えば聞こえがいいが、正直なところ自民党総裁や任期満了に伴う衆議院選を目前にした時期の発表であるため、普段なら陰謀論に対して眉間にしわを寄せがちな私自身もどうしても疑いの目で見てしまう。今回の行動制限緩和の肝となっているのがワクチン接種歴やPCR検査などの陰性結果の証明書を基にした「ワクチン・検査パッケージ」だ。要は感染リスクの少ない国民の都道府県をまたぐ移動やイベント参加、夜間の酒類提供を伴う会食などを解禁することで国民の不満解消や経済浮揚につなげるというもの。同時にこの件では「陰なる意図」というか政権のある種の真意も見え隠れする。ワクチン接種証明に代わる検査での陰性証明に関して「検査費用には、基本的に公費投入はしない」と明記しているからだ。つまり頻回な検査のわずらわしさやそれに伴う費用負担を感じる個人が「しゃあないから、ワクチンを打とう」となる方向へと暗に誘導しているとも受け取れる。私個人はできるだけワクチン接種率が向上することがコロナ禍収束への大前提と考えているので、ワクチン接種へ誘導すること自体を否定はしない。ただ、この種のものはやり方を間違えると、さらなる不信感や陰謀論を招くことになる。今回の措置を実行する際に、ワクチン非接種者のPCR検査必要時の検査費用に公費を投入しない前提ならば、最近までに判明しているワクチン接種で得られるメリット、具体的には高齢者での重症者や医療施設などでのクラスター発生の激減、ブレイクスルー感染者での重症化抑止レベルなどについて、より簡潔かつ分かりやすく発信する必要がある。つまるところ「ワクチン接種が現時点では最善策。ただし接種しない人の選択権は認めるが、すでに説明したように科学的に信頼性のあるデータからメリットは示されているので、もし打ちたくないのであれば、申し訳ないが都度必要になる陰性証明の費用は自己負担でお願いしたい」という趣旨の説明を行うべしということだ。もちろん以前と比べ厚生労働省などはワクチンに関してこれまでにないほど丁寧なQ&Aページなどを用意しており、何もしていないわけではないことは承知している。しかし、これらのページで紹介されている情報は多くが臨床試験段階のものに留まっていて、説明内容も分かりにくい。そして何よりこれまでワクチン接種のメリットの発信は、専門家個人や官公庁や自治体の発信に依存していることが多く、行動制限を決定している側である政治から語られることはほとんどなかった。泥臭い言い方になって恐縮だが、官僚や専門家ももちろんだが、人前に立ちメディアにも報じられることが圧倒的に多い政治の側から生身の声で語られることなしでは、この問題は半歩たりとも前進しないと個人的には感じている。同時にこの際に政治の側からもう一つ発信してほしい情報がある。それは「ワクチン接種を選択しない人が今後自らとその周囲の感染リスクを最小化するためにとるべき行動様式」に関してだ。もちろんこの情報にはほとんど目新しいものはないだろう。だが、国民に対して平等性を重んじるべき政治側には、このことも親身に訴える義務があると考える。同時にこのことは接種しない権利を選択するにあたって国民はどのような責任を持つかという自覚を促すことにもなる。今回の行動制限緩和が単なる選挙用でないならば、政治の側はこうした点でその覚悟を示して欲しいものだ。官僚にゆだねられた空疎な文言を棒読みし、中途半端に経済を横目に見ながら不適切に使われてきた結果、伝家の宝刀から錆びだらけのカッターナイフに落ちぶれた緊急事態宣言の二の舞は、一国民としてもうこりごりである。

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インサイド・ヘッド(続編・その3)【意識はなんで「ある」の? だから自分がやったと思うんだ!】Part 1

今回のキーワード社会脳向社会的行動反社会的行動決定論自由意志両立論なんで意識は「ある」の?脳の正体とは、舞台装置、モニター装置、解釈装置であることが分かりました。そして、これらの3つの装置によって生まれる私たちの意識は、現実の世界をそのまま認識し、自分が自分であり、そして自分の考えと行動は自分が決めている(自由意志はある)と思い込まされていることが分かりました。例えるなら、意識は、観客でありながら、バーチャルリアリティ(舞台装置)によって主役にお膳立てされ、ワイプ画面(モニター装置)によって主役を実感し、解説者(解釈装置)によって主役になりきって裏方(脳)の手柄を横取りしていると言えます。それでは、そもそもなぜこの意識は「ある」のでしょうか? ここから、意識の起源を3つの段階に分けて、その答えに進化心理学的に迫ってみましょう。そして、発達心理学的に補足してみましょう。 (1)舞台装置のみの原始的な意識今から10数億年前に太古の原始生物が誕生してから、臭いで獲物を察知したら、近づくように進化しました。5億年前に魚類が誕生してから、天敵の気配を察知したら逃げるように進化しました。この段階では、獲物や天敵がいるかどうかを感じる原始的なレベルの舞台装置です。さらに、2億年前に哺乳類が誕生してから、記憶の学習をするように進化しました。そして、手続き記憶とエピソード記憶が生まれました。こうして、舞台装置がレベルアップしていきました。1つ目の意識の段階は、舞台装置のみの原始的な意識です。この段階では、外界の刺激に対して、本能や習性(記憶の学習)で反射的に生きているだけです。自分と周りの区別はなく、ましてや自分とは何かという意識もありません。舞台装置によって、自分と世界が一体化した舞台の中にいるだけです。(2)モニター装置が加わった俯瞰的な意識2,000万年前に類人猿が誕生してから、群れをつくり、その競い合いの中で、相手の次の行動を察知(予測)するように進化しました(ミラーニューロン)。約700万年前に人類が誕生してから、約300万年前に部族をつくり、競い合いに加えて助け合いの中で、周りとうまくやっていく能力が進化しました(社会脳)。この能力は、相手の意図を察知する(読む)ことです(心の理論)。そして、相手の心(意識)の視点に立つだけでなく、自分から離れて自分自身を見る視点に立つことでもあります(自己覚知)。さらに、自分は、相手を見ていると同時に相手から見られているという2つの視点に立つことでもあります(メタ認知)。こうして、同時並行的にものごとを頭の中に留めるワーキングメモリーが生まれました。そして、モニター装置がレベルアップしていきました。2つ目の意識の段階は、モニター装置が加わった俯瞰的な意識です。この段階では、自分と周りは区別され、世界をより認識できるようになります。ただし、その多くが「今」に限定されます。つまり、今その瞬間の俯瞰的な意識があるだけで、過去を振り返ったり、未来に思いを馳せるという意識はまだありません。モニター装置によって、「今」の自分と世界を俯瞰しています。発達心理学的に言えば、この段階は2歳からになります。発達心理の実験において、生後10ヵ月から、相手の意図を察知することが指摘されています。そして、2歳前後から、鏡の中の自分が分かるようになります。ちなみに、鏡の中の自分が分かる動物は、まさに類人猿をはじめとする社会性のある動物であることが分かっています。(3)解釈装置も加わった観念的な意識20万年前に現生人類が誕生してから、言葉を話すように進化しました。そして、言葉によるエピソード記憶の積み重ねにより、意味記憶が生まれ、10万年前には貝の首飾りを信頼の証にするなどシンボルを使うようになりました(概念化)。そして、過去、現在、未来という時間の概念も分かるようになりました。こうして、解釈装置がレベルアップしていきました。3つ目の意識の段階は、解釈装置も加わった観念的な意識です。この段階では、世界の認識は、今だけでなく、連続的な時間軸の中で行われます。つまり、自分と相手(社会)を時間的一貫性があると観念的に考える意識が出てきます。解釈装置によって、自分と世界はどうつながりがあるかを解釈しています。発達心理学的に言えば、この段階は4歳からになります。4歳から時間の概念が分かるようになります。そして、10歳には、周りからどう見られているか、自分や集団のアイデンティティを意識するようになります。これは、同時に、いじめなどの同調の心理(解釈の共有)や非行(アイデンティティ危機)が始まることでもあり、11歳のライリーに重なります。なお、記憶のメカニズムの詳細については、関連記事1をご覧ください。 次のページへ >>

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第55回 コロナで“焼け太り”病院続出? 厚労省通知、財務省資料から見えてくるもの(前編)

奈良県、感染症法で50床確保へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ゴールデンウイークがやって来ます。私は、去年に断念した南会津の登山を計画していたのですが、再びの4都府県に対する緊急事態宣言で都道府県をまたぐ不要不急の移動の抑制が求められたことで、今年もどうやら行けそうにありません。「緊急事態宣言 3度目発令」を報じた4月24日付の日本経済新聞は朝刊一面で、論説委員が「1年間何をしていたのか」と国の医療提供体制の施策を厳しく批判していましたが、本当に1年間何をしていたのでしょう。今回の宣言発令でも、国の真剣さが感じられないのが気になります。「オリンピック止めます。だから…」くらいは言ってほしかった、と思う今日このごろです。前回(第54回 なぜ奈良県で?「県内全75病院に病床確保要請」をうがった見方をしてみれば…)で書いた奈良県の改正感染症法に基づく病床確保要請ですが、4月23日付の毎日新聞によれば、約15病院で計50数床確保できる見通しになった、とのことです。感染症法にも相応の効果があったということで、こうした要請は他の都道府県にも広がるかもしれません。さて、今回は厚労省が都道府県知事宛に発出していた通知について書いてみたいと思います。最近、複数の医療関係者と話していると、補助金がらみのややきな臭い話を聞くことがあります。曰く、「某大学病院はコロナの補助金で過去最高益になったらしい」「コロナ患者を受け入れていないのに、コロナで焼け太りしている病院がある」…。世の中、コロナ対応で医療現場は崩壊寸前という趣旨の報道が大半です。1年ほど前は、医療機関の患者が激減し、経営が大変だという報道もありました。しかし、ここに来て、あまり「経営が大変だ」という声が聞こえなくなってきたところに、この手の話です。現場は大変ですが、経営は良好なのでしょうか…。と首を傾げていたら、こんな厚労省通知に関する報道がありました。コロナ患者受け入れへ聴取、医療機関の状況確認へ4月20日付の産経新聞は、「コロナ患者受け入れへ聴取 医療機関の状況確認へ 厚労省が通知」という記事を掲載しました。それによれば、「厚生労働省が、正当な理由なく新型コロナウイルス感染症患者の入院を断っている医療機関に対し聴取を行い、受け入れを要請するよう求める通知を各都道府県に出したことが20日、分かった」とのことです。通知が発出されているのに「分かった」というのも変な話ですが、「感染拡大地域で病床が逼迫する中、すぐに受け入れが可能な『即応病床』を確保するのが狙い」と記事は書いています。なお、後追いする形で朝日新聞も4月23日付の朝刊で同内容の記事を掲載しています。今回取り上げられたのは、いったいどの通知だろうと調べてみました。コロナ関係の通知はそれこそ膨大にあるのと、通知したい内容とタイトルが微妙にズレているので、なかなか見つけ出すのが大変です。受け入れ困難と判断した場合は即応病床数見直しそんな中、多分、これだろうという通知が見つかりました。それは、2021年4月1日付けで、厚生労働省の医政局長 、健康局長、医薬・生活衛生局長連名で発せられた「令和3年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)の実施について」です。内容的にはコロナ対策の支援事業の実施の概要を通知するものです。その中の病床確保料の補助対象について記述した部分がニュースになっていたのです。1日に発出され、20日に「分かった」と報道されたのは、記者たちは最初その意味が把握できなかったのかもしれません。「コロナ患者受け入れへ聴取、医療機関の状況確認対象」となる医療機関は、病床確保料の補助対象となる新型コロナウイルス感染症患者等入院医療機関です。具体的には、病棟単位で新型コロナ感染症患者、または、その疑いのある患者用の病床を確保している「重点医療機関」と、新型コロナ感染症の疑いのある患者専用の個室を持っている「協力医療機関」とのことです。通知では、各都道府県に対し、医療機関の稼働状況、病床や医療スタッフの状況、人工呼吸器などの医療機器の確保状況を一元的に把握する情報システム「G-MIS(ジーミス)」などを使って、患者の受け入れ状況を確認するよう求めています。その上でさらに、「適切に受入れを行っていない」「受入要請を正当な理由なく断っている」などの場合は、受け入れ体制について聴取し、受け入れるよう要請する。聴取の結果、受け入れるのが困難と判断した場合は、その医療機関の即応病床数(つまり、病床確保料の補助)を見直すと明記しています。厚労省によると、4月7日時点で全国に重点医療機関は1,058機関、協力医療機関は986機関あるとのことです。「手を挙げても受け入れない」病院の存在この通知の意味するところは明らかです。「コロナ病床確保します」と手を挙げて確保料をもらいながら、コロナ患者を受け入れていない病院が存在する、ということです。病床確保料の補助を見直す通知をわざわざ出すということは、そうした病院が相当数あるからでしょう。この連載でも、これまでに進まないコロナ患者受け入れ体制の原因として、コロナ受け入れに手を挙げない民間病院の消極性について書いてきましたが、「手を挙げても受け入れない」病院があるとは…。まさにコロナで“焼け太り”病院です。1床当たり最高1日43万6,000円現在、コロナ病床に対する診療報酬上の対応や国の補助は相当な金額となっています。病床に対する補助に限って言えば、病床が逼迫する都道府県において新型コロナの受入病床を割り当てられている医療機関に、重症者病床1床当たり1,500万円、その他の病床、および協力医療機関の疑い患者病床は1床当たり450万円を上限に補助が行われています。さらに、2020年12月25日~2021年2月28日に新たに割り当てられた確保病床については、緊急事態宣言が発令された都道府県では1床当たり450万円、それ以外の都道府県でも300万円が補助上限額に加算されています。つまり、最大で1床当たり1,950万円の補助を受けることができるのです。病床確保料はこれとは別に、新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ態勢を確保するための確保病床および休止病床について補助されるものです。補助額の上限は、「重点医療機関」は1床当たり1日7万1,000円~43万6,000円、「協力医療機関」の疑い患者病床は5万2,000円~30万1,000円、「その他の医療機関」は1万6,000円~9万7,000円などとなっています。たとえば重点医療機関である一般病院でICU内の病床を1床確保すると、患者が入っているかどうかにかかわらず、1日30万1,000円が補助されます。「入院率」導入の意味そう考えてくると、感染状況を示す指標として4月16日から「入院率」が新たに加わったことにも納得が行きます。「入院率」とは、療養中の全感染者に対する入院者の割合です。これまで重視してきた「病床使用率」は各都道府県が確保した病床に占める入院患者の割合を示すものです。ただ、病床を(病院の都合等で)コロナに使用していないケースや、本来は入院の必要がない軽症者が入院しているケースなどを除外できず、病床の逼迫度を計るには不十分との指摘がありました。入院率という指標によって、国は病床数ではなく、無症状者も含む療養中の全感染者数に対する入院者数に着目することにしたわけです。数値が低くなるほど、入院できない人が増えている(病床が逼迫している)ことになります。入院率が25%以下だと最も深刻な「ステージ4」(感染爆発)、40%以下だと2番目に深刻な「ステージ3」(感染急増)に相当するとしています。ちなみに、4月23日更新のデータでは大阪府の入院率は12.0%、東京都は30.9%でした。「即応病床」として病床確保料をもらいながら、コロナ患者を避けてきた病院の存在は、税金の無駄遣いであるばかりでなく、病床逼迫度を推し量る上でも邪魔で困った存在だったわけです。今回の通知によって、そこにメスが入ることになったわけです。それにしても、ジャブジャブとも言われる医療機関に対するコロナ補助金を、国の財政を司る財務省はどう見ているのでしょう。次回は、それについて少し考えてみます(この項続く)。

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原発性腋窩多汗症を治療する日本初の保険適用外用薬「エクロックゲル5%」【下平博士のDIノート】第66回

原発性腋窩多汗症を治療する日本初の保険適用外用薬「エクロックゲル5%」今回は、原発性腋窩多汗症治療薬「ソフピロニウム臭化物ゲル(商品名:エクロックゲル5%、製造販売元:科研製薬)」を紹介します。本剤は、腋窩の発汗を抑制することで、多汗症に伴う患者の精神的苦痛の緩和やQOLの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、原発性腋窩多汗症の適応で、2020年9月25日に承認され、同年11月26日より発売されています。<用法・用量>1日1回、適量を腋窩に塗布します。なお、塗布部位に創傷や湿疹・皮膚炎などが見られる患者では使用しないことが望ましいとされています。<安全性>国内第III相二重盲検比較試験において、副作用は141例中23例(16.3%)で報告されています。主なものは、適用部位皮膚炎9例(6.4%)、適用部位紅斑8例(5.7%)、適用部位そう痒感3例(2.1%)でした。また、国内第III相長期投与試験においては、本剤が投与された2群の計185例中78例(42.2%)で副作用が報告されています。主なものは、適用部位皮膚炎51例(27.6%)、適用部位湿疹13例(7.0%)、適用部位紅斑11例(5.9%)、適用部位そう痒感6例(3.2%)、散瞳3例(1.6%)、霧視1例(0.5%)でした。<患者さんへの指導例>1.この薬は、汗を分泌するエクリン汗腺の受容体をブロックすることで、過剰な発汗を抑えます。2.使用前に、腋窩(わき)の水気をタオルなどでよく拭き取ります。ボトルからキャップと塗布具(アプリケーター)を外し、ポンプ1押し分の薬液をアプリケーターに乗せ、片方のわき全体に塗布してください。もう一方のわきにも同様にポンプ1押し分の薬液を塗布します。3.使用後にアプリケーターに残った薬液は、ティッシュペーパーなどで拭き取るか、水で洗い流してください。4.薬液を直接手に乗せて塗布しないでください。手に薬液が付着した場合は、絶対に顔や目を触らず、すぐに手を洗ってください。薬液が目に入った場合はまぶしさや刺激を感じることがあります。慌てず、すぐに水で洗い流してください。5.わきに薬液を塗った後は、乾くまで寝具や衣服に触れないように注意してください。塗り忘れを防ぐために、起床時や入浴後など、薬を塗るタイミングを決めておきましょう。6.本剤にはアルコールが含まれるため、火気の近くでの保存および使用は避けてください。<Shimo's eyes>原発性腋窩多汗症は、温熱や精神的負荷の有無に関係なく腋窩に大量の汗をかく疾患で、頻繁な衣服交換やシャワーが必要になるなど患者の日常生活に支障を来します。汗じみや臭いが気になり、精神的な苦痛を受ける患者が多いともいわれています。原発性腋窩多汗症に対する治療の第1選択は、塩化アルミニウムの外用療法ですが、塩化アルミニウムローションは保険適用がなく、これまで院内製剤として処方されていました。重度の場合には、A型ボツリヌス毒素の皮内投与が選択されますが、その処置は実技講習を受けた医師に限定されています。本剤は、わが国で初めて保険適用のある原発性腋窩多汗症の外用薬で、1日1回両腋窩に塗ることで、エクリン汗腺に発現するムスカリン受容体サブタイプのM3を介したコリン作動性反応を阻害し、発汗を抑制します。この抗コリン作用のため、閉塞隅角緑内障の患者および前立腺肥大による排尿障害がある患者では禁忌となっています。また、手足など腋窩以外の部位には使用できません。12歳未満の小児に対しては、臨床試験における使用経験がないため注意が必要です。1本には14日分(28回分)が充填されています。アプリケーターを使用することで手が薬液に触れることなく塗布できますが、添加物として無水エタノールが含まれるため、アルコール過敏症の患者には注意して使うよう伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 エクロックゲル5%

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第37回 早大が統合に踏み切れない東京女子医大の事情と「三派連合」の存在

慶應義塾大学が2023年4月をめどに東京歯科大学を統合、同大11番目の学部として歯学部が誕生する見通しだ。国内の総合大学では初めて医学部、看護医療学部、薬学部、歯学部の医療系4学部が揃うことになる。一方、慶大のライバルである早稲田大学は、長年に渡って東京女子医科大学との統合話が浮上しては立ち消え、実現に至っていない。その理由として、両大学の経営状況に加え、他大学からの“妨害”があったというきな臭い話も聞こえる。まず、慶大と東京歯科大が統合するメリットとは何か。先述の通り、慶大は医療系4学部を擁する国内初の総合大学として、ブランド力が一層強化される。また、附属校から歯科医を目指す場合、これまでは他大へ出るしかなかったが、晴れて内部進学が可能になる。一方、東京歯科大は経営状態が良好で国家試験の合格率も高いが、学生数の減少や歯科医師供給過剰による競争激化が進む中、「慶應」ブランドで優秀な学生集めることができる。つまり両者の統合は、名実ともに“Win-Win”の関係で成立するのだ。早大と東京女子医大の場合はどうか。東京女子医大にとって創立120年の節目である2020年は、悪いニュースが相次いだ。7月には、約30億円の病院の赤字と職員へのボーナス不支給、それを不満とした看護師400人の大量退職が報じられた。その後、同大は慌ててボーナスを支給した。その直後、2021年度の入学生から、6年間の学費を3,400万円から1,200万円アップの4,600万円にすると突如発表し、受験生に衝撃を与えた。総額が最も高い川崎医科大学(岡山県倉敷市)の4,740万円に次ぐ高さだ。背景には、コロナ禍による大学病院の収益悪化があるとされる。また10月には、6年前の医療事故について医師6人が書類送検される事態も起きた。関係者は「大学病院の財務状況とガバナンスが不全状態にある今の東京女子医大は、早大にとっては“お荷物”だ」と打ち明ける。一方、早大関係者は「17年から基金運用を始めるなど、早大の経営状況も順風満帆ではない。歴代総長のほぼ全員が検討し、『早稲田の悲願』と言われてきた医学部設置だが、うまみのある大学でないと統合は難しい」と打ち明ける。つまり現状を見る限り、早大と東京女子医大では“Win-Win”の統合になり得ないということだ。もう1つ、早大の医学部設置が叶わない背景を知る人物は次のように話す。「約20年前に、早大が医学部を持てるようにいろいろ動いたが、慶大、日本大学、東海大学の三派連合が立ちはだかり、どうにもこうにも行かなかった」と振り返る。ましてや三派連合の一角・慶大が医療系4学部を揃えるとなれば、医療界における慶大勢力はこれまで以上に強まるだろう。「早稲田大学医学部」の実現は、さらに遠のきそうだ。

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第24回 風邪薬1箱飲んだら、さぁ大変!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)若年者の嘔気・嘔吐では必ず鑑別に!2)拮抗薬はきちんと頭に入れておこう!【症例】26歳女性。ご主人が帰宅すると、自宅で繰り返し嘔吐している患者さんを発見し、辛そうにしているため救急要請。救急隊からの情報では、リビングの机の上には市販薬の空箱が数箱あり、嘔吐物には薬塊も含まれていた様子。●受診時のバイタルサイン意識10/JCS血圧119/71mmHg脈拍98回/分(整)呼吸25回/分SpO299%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3 +/+既往歴特記既往なし内服薬定期内服薬なし最終月経2週間前風邪薬の成分とはみなさん風邪薬を服用したことがあるでしょうか? 医療者はあまり使用することはないかもしれませんが、一般の方は風邪らしいなと思ったら薬局などで購入し、内服することは多いでしょう。救急外来や診療所に発熱や咳嗽を主訴に来院する患者さんの中には、市販薬が効かないから来院したという方が一定数いるものです。市販薬を指定されている量を内服している場合には、それが理由でとんでもない副作用がでることはまれですが、当然服用量が過剰になればいろいろと問題が生じます。風邪薬の成分は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬、クロルフェ二ラミンマレイン酸塩などの抗ヒスタミン薬、ジヒドロコデインリン酸塩などの鎮咳薬、そして無水カフェインが含まれている商品が多いです。今回は救急外来で遭遇する頻度が比較的高い「アセトアミノフェン中毒」について重要な点をまとめておきます。その他、カフェイン、ブロン、ブロムなども市販薬の内服で起こり得る中毒のため、是非一度勉強しておくことをお勧めします。アセトアミノフェンの投与量以前、アセトアミノフェンは1日最大量1,500mg(1回最大量500mg)と少量の使用しか認められていませんでしたが、2011年1月から1日最大量4,000mg(1回最大量1,000mg)と使用可能な量が増えました。また、静注薬も発売され、みなさんも外来で痛みを訴える患者さんに対して使用していることと思います。高齢者に対しても、肝機能障害やアルコール中毒患者では2,000〜3,000mg/日を超えないことが推奨されていますが、そうでなければ1回の投与量は10〜15mg/kg程度(1,000mgを超えない)が妥当と考えられています。アセトアミノフェン中毒とはアセトアミノフェンは、急性薬物中毒の原因物質として頻度が高く、救急外来でもしばしば遭遇します。最も注意すべきは肝障害であり、アセトアミノフェン中毒で急性肝不全を呈した患者の3週間死亡率は27%と非常に高率です1)。そのため、十分量使用しながらも中毒にならないように管理する必要があります。アセトアミノフェンの大部分は肝臓で抱合され尿中に排泄されますが、一部は肝臓で分解され、N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)を生成し、これをグルタチオンが抱合することで尿中に排泄されます。NAPQIは毒性が高いのですが、アセトアミノフェンが適正の量であれば、グルタチオンによって解毒されます。しかし、過剰量の場合には、グルタチオンが枯渇し、正常の30%程度まで減少するとNAPQIが蓄積、肝細胞壊死へと進行してしまいます2)。そのため、アセトアミノフェンを過剰に摂取した場合には、グルタチオンを増やすことが必要になるわけです。NACとは中毒診療において重要なこととして、拮抗薬の存在が挙げられます。拮抗薬が存在する薬剤は限られるため頭に入れておきましょう(参考:第7回 意識障害その6 薬物中毒の具体的な対応は?)。アセトアミノフェンに対する拮抗薬はN-アセチルシステイン(NAC)です。NACは、グルタチオンの前駆体であり、中毒症例、特に肝細胞壊死へと至ってしまうような症例では必須となります。タイミングを逃さず、NACの投与が開始できれば肝不全は回避できます。ちなみにこのNAC、投与経路は経口です。静注ではありません。臭いをかいだことがある人は忘れない臭いですよね。腐った卵のあの臭い…。NACはいつ投与するかそれではいつNACを投与するべきでしょうか。アセトアミノフェンの血中濃度が迅速に判明する場合には、その数値を持って治療の介入の有無を判断することがある程度することが可能です。ちなみに、アセトアミノフェン摂取後の経過時間を考慮した血中濃度で判断する必要があり、内服直後の数値のみをもって判断してはいけません。一般的には4時間値が100μg/mLを超えているようであればNAC開始が望ましいとされます(以前は150μg/mLでしたが、肝障害発症の予防を強固に、そして医療費の削減のため基準値が下げられました)。“Rumack-Matthewのノモグラム”は有名ですね2)。そのため、摂取時間を意識した測定、経過観察が大切です。測定が困難な場合には、内服した量から推定するしかありません。アセトアミノフェンを150mg/kg以上(50kgであれば7,500mg)服薬していた場合にはNAC療法が推奨されます。この7,500mgという量をみてどのように思いますか? 前述した通り、アセトアミノフェンの1日の最大投与量として許容されている量は4,000mgです。中毒量が目の前に存在することがよくわかると思います。痛みに悩む患者さんは多く、処方されている薬を飲み過ぎてしまうと、簡単に中毒量に達してしまう可能性があるため注意が必要なのです。1箱飲んだら危険製品にもよりますが、アセトアミノフェンが含有される風邪薬や頭痛薬など鎮痛薬と称される市販薬は、1錠に含まれるアセトアミノフェンは80~200mg程度と少量の物が多いのですが、1箱80錠のものも存在します。また、インターネット上で購入しようと思えば500mg錠100錠など、中毒量を購入することは簡単にできてしまうのが現状です。初療時のポイントは、本症例のように嘔気・嘔吐を認める患者など過量内服患者を拾い上げること、そしてNACの適応となり得る量を内服していないかを血中濃度や推定内服量から見積もり判断することです。さいごにアセトアミノフェンは使用し易く、処方する機会は多いと思います。しかし、使用方法を間違ってしまうと肝不全へ陥ってしまう可能性のある恐い薬でもあります。安全な薬というイメージが強いかもしれませんが、いかなる薬もリスクであるため、処方する際には正しい内服方法を丁寧に患者さんに説明しましょう。また、過量内服患者ではNACの適応を理解し、肝障害を防ぎましょう。1)Ostapowicz G,et al. Ann Intern Med. 2002;137:947-954.2)Heard KJ. N Engl J Med. 2008;359:285-292.

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高齢者に特化した必読救急良書【Dr.倉原の“俺の本棚”】第35回

【第35回】高齢者に特化した必読救急良書最近、救急搬送される高齢者が増えています。いや、というよりも、そもそも未曽有の高齢化社会なので、こればかりは仕方がない。小児科と産科以外の診療科では、必然的に高齢者が増えているのです。「高齢者診療の基本はDNARをとること」なんていう考え方を目にしたことがありますが、アレはいけない。20歳の若者と90歳の高齢者では、確かに救命スイッチの入り方は違うでしょう。しかし、助けられる命は助けたいと思うのが救急診療の本質。また、よくわからないので、頭からつま先まで全身CTを撮影して、異常があったら専門家をコールなんて、ちょっとダサいかもしれません。どこからがイケているのかは、結局主観なのでしょうが……。『高齢者ERレジデントマニュアル』増井 伸高/著. 医学書院. 2020年若手医師が敬遠するのは、高齢者救急が極めて複雑だからです。かといって、偽陽性と偽陰性がテンコモリでセオリーを無視している別の生き物というほどでもありません。研修医時代、「断らない救急」で当直をしていたとき、夜中にホームレスのおじいちゃんが運ばれてきました。酒臭いし、ただ酔っぱらっているだけじゃないかと思っていたら、39.1℃の発熱。研修医の十八番である、jolt accentuationやCVA tendernessをみましたが、おじいちゃんの反応がフニャフニャしていてよくわからない。熱源不明の場合、今ではコロナか!と騒がれる症例だと思いますが、身体所見だけで熱源を絞り込んだ指導医がいました。膝関節が熱感を持っていて、関節腔穿刺とGram染色で化膿性関節炎と診断したのです。こんな極端な神的ファインプレーはともかくとして、高齢者こそ基本的診察が大事なのだと痛感しました。実際に、この本には非高齢者成人ERと一線を画した対応として、身体所見を繰り返しとることで鑑別疾患を絞り込む作業の重要性が書かれています。この本で必読なのは、PART1とPART3です。高齢者特有の問題であるせん妄について、そして社会問題化しつつあるポリファーマシーや生活環境への介入など、痒いところに手が届くコラムが多いのが特徴です。とくに、入院したはいいけど、社会背景はどうなんだろう、というのは入院主治医だけでなく救急担当医にも把握してもらいたいところです。高齢者を診るということは、その人の生活を診るということ。私たち医療従事者が忘れてはいけないことです。『高齢者ERレジデントマニュアル』増井 伸高 /著出版社名医学書院定価本体3,600円+税サイズB6変刊行年2020年

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マスク着用時の口臭対策の基本とは?専門家がアドバイス

 新型コロナウイルス感染症流行の長期化に伴い、マスクを着けることが日常化している。マスク装着時に気になるのが自分の口臭の問題だ。乳酸菌食品メーカーであるオハヨーバイオテクノロジーズは「マスクの中の“臭い”気になりませんか?」と題したプレス資料の中で、口臭の原因と対策について解説している。マスク装着時の口臭対策は着用直前の口腔ケア 口臭の原因は、大きく分けて2つ。1つ目は「体」に原因がある場合で、消化不良や肝機能低下、糖尿病などが考えられる。2つ目は「口の中」に原因がある場合で、歯や舌の汚れや虫歯、歯周病などが要因となる。口臭のうち8割以上が口の中に原因があるとされ、とくに舌の上が白くなる舌苔の増加と歯周病菌による歯茎の炎症やメチルメルカプタンの発生による口臭が代表的な要因だ。 オハヨーバイオテクノロジーズの研究に協力する歯科医・日本大学客員教授の若林 健史氏は、「マスクの装着が常態化したことによって通常時よりも話す機会・時間が少なくなると口周りの動きが減る。それによって唾液の分泌が減少し、口内の循環が減ることで、悪玉菌が留まりやすくなって口内環境が悪化しやすくなる。マスクをしながらの会話は口呼吸になりやすいので口内に乾燥が起こることも考えられる」と述べる。 マスク着用時の口臭対策としては、「マスクを着用する直前に口腔ケアを徹底することが効果的。とくに舌苔を取り除き、増殖を抑制することが大切になる。舌ブラシで舌をきれいにし、歯ブラシ、歯間ブラシでブラッシングを徹底、さらに洗口液でうがいを行うとよい」(若林氏)。加えて、マスク着用の直前に匂いのきついものを食べないようにする、口内環境を整える良質な乳酸菌を食品などから摂り入れることも手軽にできるマスク着用時の口臭対策という。 医療者として、受診患者や入院患者の口臭に気づいた場合はどうすればよいか。「院内や関係医療機関の歯科衛生士を紹介して欲しい。入れ歯をしている方であれば、入れ歯の手入れを食事のすぐあとに徹底して行うことが効果的。口臭は原因によって対処方法が異なるので、専門家に相談することを薦めていただきたい」と若林氏はアドバイスする。 口臭対策品の広告等において、「日本人は欧米人に比べて口臭を持つ人が多い」とされることがあるが、「日本人の歯周疾患の保有率は上昇しているが1)、他国と比べて有意に多いというデータはない」(若林氏)という。多くの場合、口臭の原因は口内にあるため、ブレスケア製品でごまかすのではなく、しっかりとした歯磨きと舌ブラシでのケアがマスク着用時の口臭対策の基本になるという。

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